2018年に株式会社KADOKAWAから発売されたビジネス書「ビジネスモデル2.0図鑑」の概要と気になる事例をまとめました。
書籍情報
- 書名:ビジネスモデル2.0図鑑
- サブタイトル:なし
- 著者:近藤哲朗
- 出版:2018年9月29日
- テーマ:先進的なビジネスモデルの紹介
- 分類:ビジネス書
内容紹介
概要
最近(~2018年)話題のビジネスモデル100種類を「モノ」「カネ」「情報」「ヒト」に4分類し、図解入りで解説しています。
掲載されている企業の種類は、既存の大企業から新興企業、IT系、国内企業、海外企業など多岐にわたります。「面白いほどよくわかるシリーズ」や、「図解雑学シリーズ」のビジネスモデル版といったところです。
本書の最後では、読者が自分でビジネスモデルを図解できるよう「ビジネスモデル図解ツールキット」の配布サイトが紹介されており、スライド作成用のアイコンをダウンロードすることができます。
ビジネスモデル2.0の考え方
「ビジネスモデル2.0」の定義ついて、以下の特徴があると紹介していました。そしてこの本ではそれに該当するサービスを紹介しています。
- 「逆説の構造」がある
- 「創造的である」「定説を超えている」と説明していました
- 非常識的なことを緻密な思考で実現していることに価値があるとしています
- 「八方よし」になっている
- 「社会性を持つこと」と說明していました
- 社員や社会、取引先、顧客、地域社会、環境など、いずれにも不利益を与えることなく活動することで事業継続性を確保できるとしています
- 「儲けの仕組み」が成立している
- 経済的合理性を持つこと、と說明していました
- 「儲けの仕組み」があるかどうかということですが、この部分は詳しい説明を見つけ出すことができませんでした
- 恐らくは「収益性を確保できているか」ということだと思われます(推測)
特に「逆説の構造」が重要であるらしく、紹介されているビジネスモデルの説明では、どこが創造的であるのかが詳しく書かれています。
「創造的であること」については、経済産業省が2017年10月に発表した「伊藤レポート2.0」を参照するようにとのことでした。
経済産業省のページより、ドキュメント(89P)と解説スライド(24P)をダウンロードすることができます。
以下ページには「伊藤レポート最終報告書」なるものも公開されています。
目次
この本は4章で構成しており、各章にビジネスモデルの各分類を割り当てています。
- はじめに
- 本書の説明
- 序 章 「ビジネスモデル2.0」とは何か?「逆説の構造」のモデルが生き残る時代
- ビジネスモデル2.0についての説明
- 図解の説明書
- 各ビジネスモデルの紹介ページに掲載されている図解の読み方の説明
- 第1章 モノ 新たな「コアバリュー」を提供する
- レストランや球団経営など、既存のサービスから少し目先を変えたユニークなビジネスモデル31種類(ナンバー001~ナンバー031)を紹介しています
- 第2章 カネ 新たな「お金の流れ」をつくる
- 仮想通貨や投資など、お金に関わるビジネスモデル23種類(ナンバー032~ナンバー054)を紹介しています
- 第3章 情報 新たな「テクノロジー」を使う
- 第4章 ヒト 新たな「ステークホルダー」を巻き込む
- 公共事業や美容院など、これまでとは異なるステークホルダーの組み合わせを行ったビジネスモデル23種類(ナンバー078~ナンバー100)を紹介しています
- 自分でビジネスモデルを図解してみよう
- ビジネスモデルを図解する手順を説明しています
- 図解に使用するアイコンやスライドテンプレート配布ページのURLはここに掲載されています
- おわりに
- ご挨拶が書かれています
気になったビジネスモデル
本書で紹介されている中で気になったビジネスモデルを紹介します。
Optoro (返品された商品の再出荷サービス)
米国のサービスで、ショッピングサイトで返品された商品や売れ残りの商品を引き取り再販するサービスです。
リサイクルを大規模に行っていることが特徴で、引き取った商品の修理も行っているようです。
引き取った商品の一般消費者向けの販売には、専用サイト「Blinq」を設置しており、
https://www.blinq.com/www.blinq.com
企業向けの販売には、専用サイト「BULQ」を設置しています。
https://www.bulq.com/www.bulq.com
サイト覗いてみましたが、これ確かに安いです。 ノートパソコン7種類詰め合わせで 1,700米ドル(19万円くらい?)や、ゲーム81種類詰め合わせで 380ドル(4万円くらい?)などなどがありました。
ビジネスモデルは、普通のリサイクルやアウトレットと変わらないですが、なぜこの値段になるのかがちょっとわかりません。
俺のフレンチ (立ち食いフレンチ)
フランス料理を立ち食いにする代わりに回転率を上げ、料理の質を落とさずに値段を下げた。 シェフは「好きな食材を好きなだけ使っていい」と言って一流店の方をスカウトした、らしいです。
食べログで見ると、ディナーで行っても4,000円前後と格安でした。行ってみたいです。
ですが、紹介サイトを見ると着席の店舗もそこそこあり、「立ち食いで回転率を上げる」スタイルはどこに行ったのかと疑問ではあります。
(食べに行く側としては着席の方がありがたいですが)
サマリーポケット (サービスの良いトランクルーム?)
クラウド収納サービス、一箱250円/月〜 から荷物を預けることができます(取り出しは都度別料金)。
ここまではトランクルームと同様ですが、それ以外のサービスが充実しています。
- 標準サービス
- 宅配サービスでの預け入れ/取り出し
- 預け入れたものをスタッフが撮影してリスト化
- オプションサービス
- ハンガー保管
- クリーニング
- 布団クリーニング
- ラグ・マットクリーニング
- シューズクリーニング
- シューズリペア
- ヤフオク!出品
- あんしんサポート
特にヤフオクへの出品代行が便利だとのこと。
私としては「シューズリペア」や「シューズクリーニング」「クリーニング」が気になります。冬用のコートなど預けると同時にクリーニングすると良さそうです。
未来食堂 (おかずをリクエストできる食堂)
定食メニューに400円でおかず2品を追加で注文できる食堂、おかずは体調や好みにあわせて変えられます。
ホームページによると日替わり定食900円、つまり定食900円 + おかず2品400円 = 1300円になるようです。
価格帯としては大戸屋ごはん処?ココス??と同じくらいになります。
面白い試みだと思いますが、これはビジネスモデル???ではなく「ユニークなコンセプト」では???
Citizen M (シェアハウスのようなビジネスホテル)
リビングルームのようなロビーとエントランスのあるホテルで、個室やサービスを効率かさせることで低価格を実現しています。
日本の近くですと、上海と台北に出店しています。
ロビー=リビング、個室=寝室 にみたてたシェアハウスのようなホテルであるようです。 公式サイトで調べたところ、料金はこんな感じでした。
ホテル自体の評判はよく、過ごしやすそうです。
しかし地域ごとの価格差は一体??? そしてヨーロッパ方面は低価格とは言い難い。
WAmazing (訪日外国人向けフルサービス)
訪日外国人に無料SIMカードを配布、そのSIMカードを通じて旅行にかかわるサービスをワンストップで提供します。
公式ページによると、SIMカードはドコモ回線を使い500MBの無料通信が付属します。 HP上からは追加容量の購入、ホテル予約、旅行保険の申込、交通手段の検索などもできるようになってました。これは確かに便利です。
b8ta (ベータ版製品専用小売店)
ベータ版製品を専用に扱う小売店で、消費者はその場でベータ版製品を購入することができます。 メーカーは出品料を支払い商品を置くほか、スタッフが消費者から聞きだした情報と利用客の動き(商品を手に取った)などを得ることができるようです。
米国のサイトを見たところ、オンラインショップでの販売も行っていました。 これでは利用客のデータ取れないのでは???
2020年8月には有楽町も出店したようです。日本語のホームページができていました。
横浜DeNAベイスターズ
地域住民との距離を縮めるイベント行ったこと、横浜スタジアムにボックスシートその他ユニークなシートを導入したこと、その他取り組みにより収益性が改善した、としています。
個人的にはシーズン中にスタジアムの外に出店するビアガーデンが好きです。
チケットを買わなくても、外の大画面で気軽に試合を見れるのがなかなか。
ですがこれ、ビジネスモデルの話でしょうか?ちょっと変わった球団経営と地元で愛されるベイスターズの話ではないかと思います。
TransferWise (海外送金サービス)
海外送金の手数料を透明化し、かつ低価格化したサービスです。
あえて送金を行わず、TransferWiseが受け取ったお金をその時のレートで計算した額で宛先の口座に振り込むという方式を取っているようです。
(説明が難しい)
日本語のHPもありました。
「振込代行の専門業者」ととらえればいいのでしょうか?そんなに安いのであれば1度使ってみたいです。
MUJI Passport (無印良品アプリ)
無印良品の利用者の行動データを統合するアプリです。 オンラインショップと実店舗のポイント連携、店舗でのチェックインによるポイント付与などのデータを使い利用者の行動履歴を収集できる。
いや、これただのショッピングアプリじゃないですか。
どこの会社も同じようなことやってますって。
クラシル (レシピ動画アプリ)
レシピ動画サービスです。他の競合サービスに比べて以下が特徴であるとしています。
- レシピ動画数世界一 (2017年8月)
- クラシルシェフ(プロの料理人)が監修
- 1日50本のペースで動画を作成
レシピ動画の完成度がかなり高く、作りやすいメニューがそろっていました。 流行るのも納得です。
タイムズカーシェア (カーシェアリングサービス)
マナーの良いドライバーにポイントが付与され、好条件を受けられるようにすることで優良ドライバーを確保しサービスの質を保つことに成功したカーシェアリングサービスです。 本の中では「タイムズカープラス」と紹介されていましたが、名前が「タイムズカーシェアリング」に変わっています。
「どこにでも車が置いてあって便利」というだけの理由で使っていましたが、そういうシステムでしたか。 知りませんでした。
ページ内をよく見たら「TCPプログラム」なるものの説明がありました。 ポイントが溜まると、上位車種を下位車種の料金で借りられる、月額料金無料など、結構よい特典がもらえるようです。
獺祭 (ITを活用したハイテク酒造)
データ活用とマニュアルにより社員のみでの日本酒生産に成功、「獺祭」は人気銘柄となる。
https://www.asahishuzo.ne.jp/www.asahishuzo.ne.jp
これはマーケティング(宣伝)の話では??
すごいとは思いますが、これをビジネスモデルと言い切るのは無理があると思います。
コエステーション (肉声による音素材提供サービス)
声の提供者と利用者をつなぐプラットフォームで、以下を行うことができます。
- 利用者の吹き込んだ声をAIが解析し合成音声化する
- 合成音声化した声でテキストを読み上げる
- AIが制御することで自然な抑揚やスピードで音声を合成する
- 法人版では声優の声を利用することも可能
業務でYoutube用の動画作成する時に「ゆっくり」を使おうとすると上司からクレームが来ます(体験談)。
同僚や自分がナレーションを入れようとすると、派手に間違えたり不自然になったりして悲惨なことになります(体験談)。
合成音声であれば、絶対に読み間違えない、テキストを再利用できるなど、かなり効率的に動画作成ができます。
このサービスは料金を支払っても使いたいです。
ピリカ (ゴミ拾いSNS)
町のゴミ拾いに取り組む人たちのためのSNSアプリ。ポイ捨てされたゴミの写真を摂って投稿すると、感謝のフィードバックを得られます。
金銭的な見返りが無いにも関わらず、ユーザーが60万人を超え、2014年には黒字化を達成したとの事です。
収益源は企業の協賛と自治体の美化推進の予算らしいです。ホームページには以下バージョンの記載がありました。
これはちょっとすごい。
GitHub (ソースコード共有サイト)
プログラム開発に必要なソースコードの共有、Wiki、コミュニティを1つのサービスにまとめたものです。
これにより、世界中の開発者がインターネット上で簡単に共同開発を行えるようになりました。
IT関係者であれば、必ず1度は使ったことのあるはずのサービスです。
これは確かに革新的なビジネスモデルだと思います。
人によっては料理のレシピをアップロードしたり、小説のテキストを管理するのに使ったりするようです。
ビッグイシュー (ホームレス自立支援事業)
ホームレスの自立支援を応援するための雑誌と、それを販売する事業です。
路上で雑誌「ビックイシュー」を販売すると、販売した方に収益が入ります。
この事業は日本でも行われており、雑誌は1冊350円で販売しているようです。
Mikkeller (ファブレス型ビール企画事業)
年間100種類以上のビールを企画し販売する事業で、生産されたビールはレストランなどに卸す他、世界6カ国の直営店で提供しているようです。
自社では工場を持たず、すべてOEM生産にすることで、自社ではレシピの開発に注力しているとのことです。
日本では渋谷のラブホテル街に直営店があり、20種類以上のビールを置いているとのこと。
それ以外で近場のお店としては、上海、台北、ソウルにあるようです。 ショップリストは、レストラン/バー/グッズ販売などで整理されてますが、中に家系ラーメンにしか見えない写真が混じっているのが謎です。 本書では「自社のビールに合うラーメン店をオープンするなど新たな可能性の追及に余念がない」と説明されていますが、ラーメンはラーメン、ビールはビールでしょう?? しかもそのラーメン、日本では提供していません。
彩 (高級料亭向けつまもの販売事業)
野山でとれる野草を高級料亭で使われる「つまもの」として出荷するビジネスです。
徹底したマーケティングと発注ネットワークにより産業として育てることに成功したとあります。
JA東とくしまのホームページに販売サイトがありました。
本書では「地方創生の成功モデルとして有名な事例」と紹介されています。この事例は何年か前に受けた創業支援セミナーでも出てきました。 マーケティングの事例としても何度か目にしました。 JA徳島のHPをよく見ると一般消費者向けのオンラインショップもあります。
補足
本書はWeb上で無料公開されている
「ビジネスモデル2.0図鑑」は、Kindle(電子書籍)版、ハードカバー版と、note上で掲載されているweb版があります。
Web版には全文が無料で掲載されており、以下ページから閲覧することができます(スクロールで手がつかれます)。
ビジネスモデル説明用イラスト
ビジネスモデル図解用のアイコンやスライドの配布ページは以下です。
感想
よく知っている企業から、名前だけ聞いたことのあるサービス、完全に初見の製品など知ることができて面白かったです。
いろんな事を考える人がいるものだと感心しました。
Kindleでビジネスモデル100種類すべてを読み切るのは結構大変でした。Web版ではもっと大変だと思います。
最初から最後まで読むのであれば書籍版を入手することをお勧めします。